第9教室:(ドイツ語学習)『アルト・ハイデルベルク』

『アルト・ハイデルベルク』を読みながらドイツ語の学習をしましょう.

語学学習日記(ドイツ語学習)アルト・ハイデルベルク(111)

アルト・ハイデルベルク(111)


————————————【111】——————————————————

                         7. Szene.
Käthie:(geht, beide Hände voll leeren Gläsern über die Bühne.
      Rückwärts ruft sie lachend den Studenten zu) Habts nur Geduld !
      Einer nach dem andern.  Was ? —(Lacht, antwortet.) Ja, glei ! (Macht
      im vorbeikommen bei Lutz halt.) Ist er immer noch net da ?  Der
      Prinz ?
Schölermann:Nein.
Käthie:Rufts mi,  wann er kommt.  I geh drüben ins Hauskehr 
      um die Hand bin i wieder da.  I sag ihm an Gedicht,  wann er
      kommt. (Setzt die leeren Seidel an Lutzens Tisch.) Ist er fesch, der
      Prinz ? Ist er sauber ?  Gelt, die Zimmer droben sind fein staffiert ?
      Die ganze Treppe nauf hab i an Guirlanden gewickelt.  Wollt's Ihr
      zwei an Bier oder an Wein ?  I bring's Euch.
Studenten:(rufen hinter der Szene.) Käthie !!

      
————————————— (訳) ————————————————

                       第7場

ティー:(両手にいっぱい空になったビールグラスを持って舞台を
   通って行く.笑いながら後ろの学生たちに呼びかける)
      ちょっと待ってってば!順番よ.何かしら?——(笑って答え
   る)はい、すぐにお持ちしますわ.(通りすがりにルッツの所で
   立ち止まる) まだいらっしゃらないのかしら、殿下は?
シェーラーマン:まだです.
ティー:お見えになったら私を呼んでちょうだい.ちょっと用事で
   向こうの家にいますけど、すぐに戻って参りますわ.殿下が
   いらしたら、私、殿下に詩を朗読してお聞かせするの.
   (空のビールジョッキをルッツのテーブルの上に置く)
      素敵な方かしら、殿下は? エレガントなお方かしら?
      そうだわよね.あの階上の部屋はみんな飾り付けが行き届いて
   いるでしょう? 階上への階段は、私がどこも花づなで巻いて
   おいたわ.あなた方、2杯もってきますわ、おビール?それ
   ともワイン?
学生たち:(舞台裏から呼ぶ)ケティー
                                

—————————————《語彙》———————————————

die Bühne: (Nタイプ) 舞台、ステージ
  über die Bühne gehen  (物事が) 進行する  .
    ここでは字ずら通り、「人(ケティー)が舞台を通っていく」
Rückwärts:(副) 後ろへ(に)、
ruft…zu :(分離動詞)  zu/rufen (他) [DにAを] 大声で言う
die Geduld (単ノミ) 忍耐、我慢、辛抱; Geduld haben / 我慢する
     本文の Habts nur Geduld !  はHabts が ihr に対するhabt
     の訛り.nur は命令文に使われると、「とにかく」とか
  「~しなさいってば」発話者の断固たる要求が加わります.
einer nach dem andern:ひとりずつ
glei:gleich の訛り    
vorbei/kommen:(自/s) [bei + D格](口語)[Dの所に] 立ち寄る 
    Ich komme morgen bei euch vorbei. 
    明日君たちの所にちょっと立ち寄って行くよ.
im vorbeikommen bei Lutz:ルッツの所に立ち寄って
  im があるので次のvorbeikommen は名詞と見なすのが妥当.
  通例、zuのない不定詞を名詞化するときは頭字を大文字に
  する.なぜ小文字なのか、私の学習不足につき不明ですみません.
  おそらくim vorbeikommen は「通りすがりに」という意味の副詞
  として慣用表現化されているのではないかと考えます.  
  (ただし辞書不掲載の表現語句なので確証はありません.) 
  (ええかげんなことで申し訳ないです.ごめんなさい.) 
halt/machen (自/h) 停止する、立ち止まる;休憩する
ins Hauskehr:(1単訛り)√ins Haus kehre <ins Haus kehren
    家に戻る、家に帰る 
um die Hand:(辞書不掲載につき不明)「手回り」という意味
  があるので「ちょっとした用事で」という意味ではないか
  と推測します..
fesch: (形)[南ドイツ,オーストリア] 粋な、あかぬけした、ハイカラな
  スマートな、いかした、親切な(オーストリア)sehr net   
sauber :(形)[南ドイツ,オーストリア]  品よくきれいな
Gelt: (ドイツ南部表現) そうでしょう、そうだよね    
fein:(形) 細かな、行き届いた 
staffiert (過去分詞) <staffieren (他)[オーストリア](Aに) 飾りをつける
    * 語尾がieren で終わる動詞の過去分詞には語頭にge をつけません. 
droben (副詞)[南ドイツ/オーストリア] あの上で、あの上の方で   
die Treppe [nタイプ] 階段  
nauf (副) [ドイツ南部] = hinauf (下から向こうの) 上へ    
Guirlanden (pl/f) <die Guirlande (nタイプ) = Girlande 花飾り、花綱
  (花や葉や彩色した紙の鎖を長くつないだ飾り) 
gewickelt (過去分詞) <wickeln (他) (Aを) 巻く
an (前、D格支配) [手段、手がかり]  ~で、
    Die ganze Treppe nauf hab i an Guirlanden gewickelt. 
    上への階段すべてを私は花つなで巻きました.
an (前、D格支配) [限定] ~に関しては、
  Wollt's Ihr zwei an Bier oder an Wein ?
    あなた方、ビールが2杯ほしい?それともワインが2杯?


—————————————《文法》———————————————

   Käthie geht, beide Hände voll leeren Gläsern über die Bühne.
   ケティーが両手いっぱいに空のグラスを持って舞台を通っていく.

初級文法を終えたばかりの人には、やや難解な文かと思います.  
その難解な部分はこれ:beide Hände voll leeren Gläsern
これがなければ、
    Käthie geht über die Bühne / ケティーは舞台を通っていく.
それほど難しくはありません..über は「~を通って」という意味.

さて、beide Hände voll leeren Gläsern は2つの部分で構成されています.
    beide Hände :両手が
    voll leeren Gläsern:空のグラスでいっぱいである.
つまりこの2つが主語・述語関係を持っているのです.
英語ならば、(with) her both hands (being) full of empty glasses
という分詞構文になっているところ.
with は主節の主語とは別の主語である指標です.being は分詞構文
の名残り.ほとんど意味はなく、連辞(コピュラ)というつなぎの
役目.料理のつなぎ粉のようなもの.主述関係を示す指標です.

ではドイツ語ではどうなっているのか? 指標の前置詞もつなぎの
現在分詞もなく、ただ遊離独立した名詞群とその補語群があるのみ.
しかしながら、主節のKäthie geht über die Bühne からは、はみ出た
名詞・補語群がコンマで浮き出されているため、主述関係をもつ
遊離構文の一種であることが見て取れます.そして最終的に 

「ケティーは両手を空のグラスで一杯にして、
 舞台を通って行きます.」

と読み取ることができます。


—————————————《ひとこと》———————————————

本文10行目、ケティーのセリフ, die Zimmer droben sind fein staffiert ?
を「あの階上の部屋はみんな飾り付けが行き届いているでしょう? 」
としていますが、すでに、ルッツは、この館に到着したときに部屋を見
ていますので、ケティーのセリフは確かめるような言い方になっています.

「あの階上の部屋はみんな飾り付けが行き届いていますか?」

とはなりません.訳の正誤の問題ではなく、ストーリーに矛盾が発生
するかどうかの問題です.訳すということは、ストーリーというバック
グラウンドにも気を遣うことが含まれるようです.