第9教室:『湖畔』(ドイツ語学習)『アルト・ハイデルベルク』学習済み

『湖畔』を読みながらドイツ語の学習をしましょう.

語学学習日記(ドイツ語学習)アルト・ハイデルベルク(89)

アルト・ハイデルベルク(89)


—————————————【89】———————————————————

Detlev.  Befehlt Ihr.  so werde ich für Euch zum Narr,  Pfalzgräfin,
      schönste der Freuen !

Käthie. (rasch zu einem anderen,  dessen ganzer Kopf verbunden ist).
     Ach und der Seppel !  Zeig her ! 's  geschieht euch recht !  
     Raufbolde seid's ihr !

Detlev.  Füchse,  hebt mich in die Höhe !  Kellermann !

Kellermann.  Herr Graf !


———————————  (訳)  ————————————————

デトレーフ:  ご命令下されば、おん身のために、ピエロにも
    なりましょうぞ.宮中伯* の姫ぎみ、最高の美女よ.

ティー:(急に顔を包帯でぐるぐる巻きにした別の一人に)
    あら、誰かと思えば、ゼッペルじゃない! こっちに
    見せてちょうだい.あなたもかなりひどい怪我* ね.
        あなたたちったら、けんか好きなんだから!

デトレーフ:新入生諸君、私の身体を起こしてくれ! ケラーマン!

ケラーマン:はい、伯爵さま!

 

———————————《語彙》————————————————

Befehlt  < Befehlen (他) (3格に4格を) 命令する 
Ihr  17世紀まではSie の代わりにIhr が2人称敬称として用いられました
  「あなた(がた)」、」ここではデトレーフが宮廷貴族を気取って言って
  いるので、「おん身は」と訳します.
Befehlt Ihr 倒置されていますが、これで「命令をなさいませ」と命令形に
  なっています.続くso 以下「そうすれば~」so werde ich 
   「そうすれば~いたしましょうぞ.」と呼応関係を作っています.
  {ご命令とあらば、~いたします.」と言っています.
der Narr (弱EN式) 愚か者、ばか   ❷道化、道化師、ピエロ
zum Narr werden ピエロに成り下がる (zu は身分の変化、~に身をやつす)
  zun Dieb werden  泥棒に成り下がる 
die Pfalzgräfin [史] 宮中伯爵夫人
schönste der Freuen: schönste は最上級.その次のder Freuen は2格名詞.
   2格名詞は、前置詞を介さず、直接「範囲」を述べる.「ある範囲の中で」
    Der See ist der tiefste der Welt./ その湖は世界で一番深い. 
  本文では、die Frau (女性) を複数にして、「女性たちの中で」
  schönste der Freuen:「ご婦人方の中で最も美しい」(der Freuen=複数2格)
  文法的には最上級なのでdieが必要.die がなければ、「きわめて」、「比較的」
  など、意味にやわらぎが生ずる.定冠詞(ここではdie)で「唯一の」という
  意味が出るわけで、これがなければ、「最上の」という意味から落ちる.
  普通、最上級のあとに、範囲指定がくると、相対(唯一)最上級になるので
  すが、デートレフの会話では、die がありません. 
  なので、相対最上級で訳すか、絶対最上級で訳すか、意見の分かれるところ
  です.他の先生方の訳本を見てみると 
    岩波文庫 (1980年版):このうえなく美しき君よ(相対最上級)
        岩波文庫 (1946年版):この麗しき人(絶対最上級)
    旺文社文庫(1966年版):いとも美しいお方(絶対最上級)
  私の愚見を述べますと、定冠詞や所有形容詞が来なくても、最上級を指定
  する範囲が来ると、「その中で最高の」という意味にならざるを得ない. 
rasch (形) (速度が) 速い、(決断が)すばやい 
geschieht (3単現) <geschehen (事が)起こる、生じる
    geschehen jm (事が人の身の上に)起こる、生じる
     geschehen3変化:geschehen geschah geschehen  
recht (形) ❶右の ❷正しい
   (副)  相当に、かなり、けっこう
Raufbolde  <der Raufbold (E式)*  けんか好き、乱暴者     
Füchse  <Fuchs (変E)   ❶キツネ ❷ずる賢いやつ
         ❸新入生(この作品では全章にわたりこの意味)
die Höhe (弱) 高さ、高み
 den Stein in die Höhe heben /  石を持ち上げる


———————————《註釈》————————————————

宮中(きゅうちゅう)伯:中世ドイツの爵位の1つで、城、あるいは宮廷で
の王の代理となる貴族の第一人者で、総理大臣級.その姫君が宮中伯夫人
 (Pfalzgräfin) .

怪我: テキスト側には「怪我」を意味する語はありませんが、
's  geschieht euch recht ! =Es geschieht euch recht ! 
  (あなたにも、かなりそれが生じている)
 「ひどい傷ね」と言っていることになります.
劇や映画なら、傷が観客にもわかるので、いちいち言わなくても、
 文字通り「ひどいことになっちゃてるじゃない」でいいのですが、
本では、傷を視覚に訴えられないので、「怪我」「傷」などの意訳を
入れた方が親切かと思いました.  

Raufbolde  <der Raufbold (E式)* :名詞はこれまで{_(e)s/_e } と表記して
来ましたが、これだと記憶に残りにくいので、der Raufbold (E式) とする
ことにします.ごちゃごちゃ書くより、覚えてもらうことが大切なので、
視覚訴え作戦です.「E式」と言っただけで、みなさん
 der  Raufbold       die  Raufbolde
 des  Raufbold(e)s   der  Raufbolde
  dem  Raufbold(e)   den  Raufbolden
  den  Raufbold       die  Raufbolde
が出て来ると信じております.

Füchse  <Fuchs (変E)  :ウムラウトが生じる場合、「変」をつけておきます.
「変」がついていると、「変だぞ」と注意を払っていただけると信じております.

die Höhe : die Höhe のように、複数でen ではなく、n だけをつける場合は
      (EN式)とは書かず(弱)と表記します.