第9教室:『湖畔』(ドイツ語学習)『アルト・ハイデルベルク』学習済み

『湖畔』を読みながらドイツ語の学習をしましょう.

語学学習日記(ドイツ語学習)アルト・ハイデルベルク(109)

アルト・ハイデルベルク(109)


————————————【109】——————————————————


Lutz: Das geht seit heute früh immerfort gegen mich !  Mit 
       Keulenschlägen !
Schölermann (angstvoll, devot): Ist etwas geschehen, Herr
       Lutz ?  Noch etwas ?
Lutz: Wir fuhren aus Karlsburg heute früh um neun.
       Die Straßen waren  voll  Menschen,  der  Bahnhof  abgesperrt,
       etcetera.  Se.  Hochfürsttliche  Durchlaucht  selbst  hatten  die
       Gnade,  Se Durchlaucht  zur  Bahn  zu geleiten.  Der Hof  war
       anwesend,  die  Adjustanten,  Se.  Exzellenz  der  Herr  Hofmarschall,
       der  Staatsrath v. Giesebrecht,  der  Präsident  v. J úrgens,  Herr
       General  v. Lachner,  Exzellenz  u. s. w.  Der  Zug  kommt *,  Se.
       Durchlaucht  besteigen  mit  diesem  Dr.  Jüttner  ein  reservirtes
       Coupé  ich selbst  ein  anderes Coupé—der Zug fährt ab.   
Schölermann: Fährt ab. 
Lutz:Ja. Drei Stunden später hält der Zug in Bebra.  Ich steige
      aus meinem Coupé,  ich trete an Sr. Durchlaucht Coupé,  ich
      öffne die Thür,  ich frage:» Haben Ew. Durchlaucht Befehle ? « (Mit
      zitternder Stimme:) Da beugt sich dieser dicke Mensch von Doktor
      aus der Thür und sagt——sagt:» Lassen Sie das !  Bleiben Sie in Ihrem
      Coupé !  Se. Durchlaucht wünscht zu reisen,  ohne auszufallen ! «
      Sagt  das in einem Tone,  als ob  ich  dieses  dicken  Menschen
      Bedienter wäre !!
Schölermann:(verlegen).  Ach——


————————————— (訳) ————————————————

ルッツ:今朝はもう早くから、ずっと私はついていない!
    打ちのめされたよ.
シェーラーマン:(おどおどと、そして恭しく)何かあった
    のでしょうか、ルッツ様.まだ何かが?
ルッツ:私たちは、今朝9時にカールスブルクを出発したのだ.
        通りはどこも人でいっぱいだった.駅といえば立入禁止だ.
        などなどだ.恐れ多くも大殿下様は、皇太子様を駅まで
    ご自身でお見送りになった.廷臣たちも参列していた.
        副官の方々もだ.宮内大臣閣下も、式部卿殿も、枢密顧問官
    のフォン・ギーゼブ゙レヒト、長官フォン・ユルゲンス、
    それに陸軍大将のフォン・ラハナーなど閣下のお歴々がな.
    そこへ列車がやって来た*.殿下はあのユットナー博士と
    予約した車室に乗り込んだ.そして私自身は別の車室に
    入る.そして列車は出発する.
シェーラーマン:列車が出発します.
ルッツ:そうだ.3時間後に列車はベーブラに到着した.
        私は自分の車室から移動して、殿下の車室へと歩み進む.
    そして扉を開けて聞いたんだ:「殿下、お言いつけはございま
    すか?」  すると、あのデブのユットナー博士が扉から身を
    かがめて現れて言うんだ.言うんだよ:「いいから放っておい
    てくれ.君は自分の車室にいたまえ.殿下はプライベートな
    旅行をお楽しみだ!」とな.まるで私があのデブ人間の召使
    いであるような調子で言うのだよ.
シェーラーマン:(困惑して)ああ、何と.

 

—————————————《語彙》———————————————

das geht immerfort gegen mich ! / 私はついてない!
      geht (3単現) <gehen は物事が[…に]進む、運ぶ、
   gegen sich gehen (成り行きが) その人に裏目に出る
immerfort (副)[やや古語] 絶えず、常に                   
Keulenschlägen <der Keulenschlag (変E) 決定的打撃、棍棒の一撃  
angstvoll (形) 不安でいっぱいの、ひどくおどおど[びくびく]した、 
devot (形)[文語] ①恭順な、②卑屈な
geschehen (自) 起こる、生じる、
  (Dの)身に起こる、に降りかかる
  三変化:geschehen  geschah   geschehen      
    主語は3単のみ、現在3単:es geschiet      
abgesperrt <ab/sperren (他)[A道路などを] 閉鎖する、遮断する
    die Unglücksstelle abgesperren 
  事故現場を通行禁止(立入禁止)にする       
die Gnade (nタイプ) 好意、親切、慈悲、温情 
    die Gnade haben zu + 不定詞 恐れ多くも~する
Se. Hochfürsttliche Durchlaucht 大殿下(カールスブルク国王)
Se Durchlaucht  殿下(カールスブルク国皇太子)
geleiten (他)[文語] [Aを方向詞へ]  送っていく   
der Hof (変E) 廷臣(この意味では単数のみで、集合名詞)、宮廷、宮殿   
anwesend (形) 出席している、居合わせている
der Adjustant (enタイプ)[アトユタント] (軍事) 副官 
Se. Exzellenz (Seine Exzellenz)閣下、ここでは宮内大臣閣下 
     恐らく城を留守には出来ないので国務大臣は城に残ったと推定する.
der Herr Hofmarschall  侍従長殿、式部卿殿
der Staatsrath <der Staatsrat (変E) ①枢密院、②枢密顧問官、参議官 
v.Giesebrecht (人名) フォン・ギーゼブ゙レヒト      
der der Präsident (enタイプ) ①大統領、②長官、ここでは②の長官 
v.Júrgens (人名) フォン・ユルゲンス      
der General (Eタイプ) 陸軍大将
  (空軍大将を指すこともあるが、この作品が書かれた1901年にはまだ
   飛行機はありませんでした.ライト兄弟の飛行実験は1903年12月)
v. Lachner (人名) フォン・ラハナー 
u. s. w. (略)などなど、等々 √und so weiter     
reservirtes (形、過去分詞)<reservieren (他) (Aを) 予約する         
das Coupé (古語)(sタイプ) (列車の) コンパートメント 
steigen (自/s) 移動する
trete (1単現) <treten (自) […へ、から] 歩み出る、入る
Sr. =Seiner これはCoupé にかかっているため Se がSr. と
   なったもの.(中性2格)     
der Befehl (eタイプ) 命令             
mit zitternder Stimme  震える声で / die Stimme (en タイプ) 声
  zitternd (現在分詞) + er (強女3) <zittern (自) 震える        
beugt sich  <sich beugen  身をかがめる
Lassen Sie das !  そんなことはやめなさい! 放っておきなさい! 
    <lassen (他) Aをやめる            
ohne auszufallen  中断することなく、妨げられることなく、
     aus/fallen 中止になる、運休になる、突然止まる         
Bediente (m/f) (形容詞変化をする)  ここでは強変化N格
    意味は(m)のときはBediener  下僕、召使い
     (f) のときはBedienerin  女中、家政婦
    尚、G格ですが、ここでは  dieses  dicken  Menschen が
  Bedienter に先行しています.おそらく次の wäre の直前に
  Bedienter を置くためなのでしょう.
    Bedienter wäre !  召使いなのか!というルッツの憤りが伝わって
  きます.
verlegen (形) 当惑した、困惑した
  


————————————《お忍びで》———————————————

定訳本ではohne auszufallen  の訳を「お忍びで」としています.
(公務に)患わされず、ということで、それが当を得た訳なのでしょう.
ちなみに「アクセス和独辞典」で「お忍びで」を引くと inkognito で
「お忍びで旅行する」は inkognito reisen     
なので、ユットナー博士のセリフを言い換えると、
Se. Durchlaucht wünscht inkognito zu reisen ! 
殿下はお忍びでの旅行をお望みだ!
番匠谷版の訳は「殿下はお気楽な旅行をお望みだからな」
いずれにせよ、「公務から解放された旅行」という趣旨に沿った
訳が大切と思います.

 

—————————————《文法》———————————————

1:現在形
*) Der  Zug  kommt, / そこへ列車がやって来た.
kam ではないので、正しくは、「列車がやって来る」のはずです.
なぜ現在形なのか?
それは臨場感を出すため、と言われています.

過去の叙述でも、臨場感を出すために現在形で描写されることがしばしば
あります.訳す場合は、逆に過去形に戻した方が分かりやすいかも知れま
せん.固形のインスタント味噌汁をお湯で戻すように.

2:分離動詞 steige…aus <aus/steigen 降りる
   ルッツのセリフで Ich steige aus meinem Coupé,  ich trete an 
Sr. Durchlaucht Coupé…. 
   がありますが、[aus/steigen 降りる] というこの動詞を適用して
訳されている訳本もあります.(旺文社文庫版)しかしここでは
分離動詞ではなく、単にsteigen (移動する)と受け取り、aus は
自分の客室「から」移動する、と解釈した方がいいと思います.
つまり、ルッツは、ホームに降りたのではなく、列車内の通路を
通って、ユットナー博士たちの客室に行った、という受け取り方
でいいと思います.